NAP策定への意見:サプライチェーン(農林水産業)

ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)策定への市民社会からの意見書

(2020年1月23日)

【現状と課題】

  • 財務省貿易統計(2018)によれば、輸入品総額約83兆円の内、農林水産物は9兆6688億円(構成比11.7%、前年比3%増)であり、その内、農産物が6兆6222億円、水産物が1兆7910億円である。食料自給率をみても、日本はわずか37%(2018年度カロリーベース)と、世界で有数の農産物輸入国である。
  • 輸入国は、穀物系は、米国、オーストラリア、カナダ、中国等、水産物系は、中国、タイ、ベトナム、インドネシアが主要国である。
  • 一般的に農林水産業は労働集約産業であり、例えば、強制労働、劣悪な労働条件での労働(低賃金、長時間労働、危険な仕事等の安全衛生等)、児童労働、男女格差等を含む労働者への差別、過去から様々な労働者に関わる人権侵害が多い。 
  • また一部の国では、インフォーマルセクター(非公式な経済活動)での生産が一定割合を占めており、法規制や取り締まりが難しい。例えば漁船による海上での漁では、当局の目が届きにくく、大きな問題となっている。 
  • 最近の事例では、(1)タイにおける漁業において、近隣諸国から出稼ぎに来た漁師たちが人身取引の被害者となり、最低賃金を下回る賃金、劣悪な労働環境等の人権侵害を受けているが、移住労働者はタイ労働法の適用外であり、労働組合を結成する権利もない(ヒューマンライツ・ウォッチ)。(2)パーム油をめぐっては、森林減少等の環境破壊と共に、アブラヤシ農園での強制労働、児童労働、性差別、労働者の健康を害する搾取的で危険な労働といった深刻な人権侵害の実態が明らかになっている(アムネスティ・インターナショナル)。日本に輸入されているパーム油は、菜種油に次ぐ使用料の多い植物油であり、その大半がインドネシアとマレーシアで生産されている。 
  • 日本でも、これまで「技能実習生」として、外国人が農業に従事してきたが、2019年4月より、改正出入国管理法(入管法)に基づき、新設された在留資格で、今後、農業分野で働く外国人が増える見込みであり、適切な労働環境下での労働なのか、これまでの「技能実習生」で見られた人権侵害が起きないよう、モニタリングが必要である。

【NAPへの提言】

  • これらの問題を解決するには、企業のサプライチェーンにおけるトレーサビリティの強化を含む人権デューディリジェンス(HRDD)の取り組み促進と情報開示が必用であり、政府においても、企業に対してHRDDを求め、モニタリングを行うなど、NAPでも取り扱う重点分野に含めるべきである。

NPO法人国際協力NGOセンター〔JANIC〕