ステークホルダー共通要請事項(第2)〔2020年6月〕

2020年6月2日、作業部会の構成員一同名で「ステークホルダー共通要請事項(第2)」が日本政府に提出されました。NAP策定プロセスに参画してきた作業部会構成員・団体による共通要請は、1回目の2019年11月21日に続き2回目となり、①その第1回目の共通要請事項をNAPに十分に反映させること、②「2020年半ば」のNAP公表後の実施・モニタリング・改定プロセスをステークホルダーも関与した確かなものにすること、③COVID-19の人権への影響とその対応をNAPに組み込むこと、の3つの柱からなっています。

※ 末尾のリンクから、別添資料を加えた詳細版PDFをダウンロードできます。


ステークホルダー共通要請書

 

ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議 御中

令和1(2020)年6月2日

ビジネスと人権に関する行動計画に係る作業部会

ステークホルダー構成員一同

 

 令和1(2019)年11月21日、ビジネスと人権に関する行動計画(「NAP」)に係る作業部会ステークホルダー構成員(「SH」)一同は、政府に対し要請書(「第1要請書」)を提出しました。その後令和2(2020)年2月17日に行動計画の原案(「NAP原案」)がパブリックコメントに付されましたが、SH一同は、同NAP原案には第1要請書の内容が十分に反映されておらず、個々の要請内容の反映の可否とその理由についてさらなる議論が必要と考えています。

 

 またSH一同は、NAP原案に対して多くのSHから出された意見の中でも、特にNAPの実施、モニタリング、見直しのプロセスの透明性及び実効性の確保について共通した意見が見られたので、この点についての具体化のために議論を行いました。

 

 さらに、本書でも述べる通り、現在COVID-19 のパンデミックが私たちの経済社会生活そのものに甚大な影響を及ぼしており、感染防止等のために採られる政策措置により、企業活動に関連した人権への負の影響にも懸念が表明されています。その意味で、COVID-19の危機は、企業活動が人権に及ぼす影響が大きいことを明らかにし、この危機を通じて指導原則の価値及び基準の重要性がより明確になっています。そこで、COVID-19の危機を踏まえ、NAPを現実に即したより実効性のあるものとし、人権への影響、特に脆弱な人々に対する負の影響の防止、軽減、救済についてNAPに取り入れるべく議論を行う必要があると考えます。

 

 そこで、以下の通り、改めてここにSHの意見が最低限一致する要請事項(「SH共通要請事項」)を、NAPに具体化して反映し、これに応じた仕組みを導入することを要請します。

 

 また、SH共通要請事項を含む本要請書を、第6回作業部会並びにそれ以降の作業部会及び諮問委員会において議題として取り上げ、配布資料として取り扱い、適した時期に政府から公開することも併せて要請します。さらに、SH共通要請事項を上回る各SHの主張、第2回諮問委員会における各委員からの指摘事項、パブリックコメントに寄せられた意見についても、今後のNAP策定プロセスにおいて議論のうえ、理由を付した採否を明らかにされるよう要請します。

 


ステークホルダー共通要請事項(第2)

 

2020年6月2日

ビジネスと人権に関する行動計画に係る作業部会

ステークホルダー構成員一同

第1 第1要請書に基づく共通要請事項の反映

 

 昨年提出したSH共通要請事項は、SHの意見が最低限一致する事項であり、NAPが満たすべき内容の最低ラインといえますが、NAP原案においてこれらが十分に反映されていません。そのため、SH一同は、政府に対して、第1要請書に記載されたSH共通要請事項がどの程度NAP原案に反映されているかを明らかにする対応表の作成を要請するとともに、第2回諮問委員会における各委員からの指摘事項及びパブリックコメントに寄せられた意見をNAP原案にどう反映させるかを検討する際に、SH共通要請事項における個々の要請内容の反映の可否とその理由についてさらなる議論を行うこと要請します。

 

第2 ステークホルダー関与型のNAP実施・モニタリング・改定の体制整備

 

 以下の通り、NAPの信頼性を確保し、その目的を効果的に達成するため、以下の要素を基本とした、透明性・包摂性・実効性の担保されたNAPの実施・モニタリング・改定のための体制をNAPに記載することを要請します(NAP実施・モニタリング・改定手続きの参考例として別添資料1を添付します)。

 

A. 実施・モニタリングにあたり、PDCAサイクルを実施できる体制の整備

 

a. 省庁間の政策の一貫性の推進や調整を図るための政府機関の特定・会議体の設置(内閣府などの特定の省庁に司令塔組織としての会議体を置くことも検討しうる)。

b. NAPの各具体的措置に責任を持つ省庁の特定(指導原則の求めるビジネスと人権の保護、企業による尊重を直接担当する国内部署も参画)

c. NAPの各具体的措置について、具体的な取組み事項、期限、KPI等の特定と文書化(SMART指標(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)に基づく具体化)

d. 各具体的措置に対するKPIに加え、NAP全体の効果を測定するKPIの策定

e. NAP実施に必要な関係団体との連携(政府関連機関、シンクタンク、国内外の経済団体及び労働組合組織、NGO/NPO、関連国際機関など)、特に日本企業の海外展開に関わる関係機関(海外における政府関連機関現地事務所を含む)の役割特定

f. NAP実施に関する政府報告を行う定期会議の開催、政府による報告書の作成

g. NAP実施・モニタリングに必要となる予算の確保

 

B. プロセス全体における透明性・包摂性の確保

 

a. SHが参加した形でのモニタリングのための会議体の設置(作業部会・諮問委員会に準じたものが考えられる)

b. 負の影響を受けるリスクの高い社会的に脆弱なグループを含む当事者及びその支援団体から意見を聴く手続の確保

 

C. 影響評価・改定プロセス

 

a. 実施・モニタリングの成果をまとめた政府報告書の作成

b. NAP自体の影響評価に加え、人権への負の影響と既存の政策とのギャップ分析の実施

c. 上記を踏まえたNAPの改定プロセスにおけるSHの関与とその意見の反映

 

第3 コロナ危機を通じた人権への影響とその対応についてのNAPへの組み込み

 

 現在COVID-19 のパンデミックがあらゆる人の経済社会活動に甚大な影響を及ぼしており、感染防止等のために採られる政策措置によって、企業の事業継続及び持続可能なサプライチェーンへも危機が生じており、政府を中心に社会経済を支えるすべての主体に責任ある行動と協働が求められています。現在認識されているCOVID-19の人権への影響として、国内外における失業の増加、労働環境の悪化、危険有害労働(児童労働、強制労働、人身取引含む)の増加、非正規雇用労働者や外国人労働者に対する差別的取扱い、とりわけインフォーマルセクターにおける甚大な負の影響、さらにはデジタル監視技術の活用によるプライバシー侵害などが懸念されており、また、失業や労働環境の悪化に伴い、家庭における、特に女性、子ども等に対する負の影響が生じています。

 

 他方、企業が危機の中で課題に立ち向かう行動を起こし、脆弱な人々を困難な状況から救い出す例も報告されています。人権が危機に晒されている現在の状況下において、企業が人権への負の影響に適切に対処し正の影響を最大化することができる政策を政府がとることは、国家の人権保護義務を果たす意味合いのみならず、危機によってもたらされる新しい価値観との共存、レジリエントな経済社会の構築、創造的復興(Build Back Better)の実現に向けて極めて重要であり、誰一人取り残さないというSDGsの理念を実現する基礎となります。この意味で、COVID-19は個人の尊厳にかかわる人権の課題かつビジネスの課題といい得、UNWGも、COVID-19の対処におけるUNGPの重要性を指摘し、政府とビジネスが「持続可能で人間中心の」アプローチで対処すべきと言及しています 。

 

 以上を踏まえ、COVID-19のもたらす、国内はもとよりグローバル経済社会への影響という文脈で、この時点におけるNAP策定の意義を再確認した上で、COVID-19によって明らかになった課題を十分に考慮し、NAPにおいて指導原則をどのように活用し実行していくのかについての政府の現実に即した方針の提供と、これに沿ったNAPの実施を要請します。NAPを社会全体の理解と協力の上で実施・推進するためにもこの方針がすべての人にとって必要となります。COVID-19の世界的感染による危機に直面した世界で最初のNAPとなり得る日本のNAPにおいて、責任ある企業行動を促進しつつ、ビジネスが人権に及ぼすプラスの影響を最大限発揮させて、またCOVID-19を経験した我々の世界が持続可能な発展に向けて行動していくようなメッセージが発せられるように工夫を行うように要請します。

 

別添資料:

  1. NAP実施・モニタリング・改定手続きの参考例
  2. NAP原案の記載とステークホルダーの主な関係意見
  3. 関連するNAPガイダンスの記載