NAP策定への意見:国内人権機関

ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)策定への市民社会からの意見書

(2020年1月23日)

【現状と課題】

  • 国内人権機関については、政府による人権機関設置法案が2012年に廃案になって以降、具体的な進展が見られない。一方、2017年の国連人権理事会第3回普遍的・定期的審査(UPR)での、パリ原則に適合した国内人権機関の設置に向けた勧告について、政府は引き続きフォローアップすることに同意してもいる。NAP策定が具体的に進められている現在、国内人権機関の設置に向けた道筋を改めて定める機会とするべきである。 
  • 国連人権センター(当時)が1995年に出したガイドライン「国内人権機関―人権の伸長と保護のための国内人権機関づくりの手引き書」は、国内人権機関の任務として、①人権に関する認識の向上と人権教育、②政府への助言と支援、③申し立てられた人権侵害の調査、を挙げている。
  • 加えて、国内人権機関のビジネスと人権に関する具体的な機能も確認されてきた。国内人権機関国際調整委員会が2010年に出したエディンバラ原則では、①ビジネスと人権に関する人権促進・教育・研究に基づく啓発や助言の役割に加え、②企業による侵害事例やその救済などのモニタリング、③被害者からの苦情への対応、④侵害事例の仲介や調停、被害者支援を挙げている。これらの機能は、NAP策定・実施において国内人権機関がはたしてきた積極的役割からも明らかである。
  • 国内人権機関は指導原則の第3の柱である救済へのアクセスの確保において、非司法的救済の機能として重要な役割を果たすが、同時に、「人権に関する認識の向上と人権教育」は、指導原則が依拠する「国際的に認められた人権」の共通理解を国内で普及させるためにも重要である。また、国家・企業と協議しながら、その人権保護・尊重の取り組みを助け指導する役割を担っている。NAP実施はもちろんのこと、ビジネスと人権の取組みにおいて、国内人権機関は必要不可欠な存在である。
  • なお、NAPの策定プロセスではSDGsとの関係性が重視されており、2019年12月に改定された政府の「SDGs実施指針」でもNAPに言及されているが、一方、国連のSDGs指標には「パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の存在の有無」が含まれている(指標16.a.1)ことにも留意するべきである。国連の「SDGsレポート2019」では、パリ原則に適合した国内人権機関の設置を2030年に向けて加速させるべきとしている。

【NAPへの提言】

  • 国内人権機関設置の検討が必要であることをNAPにおいて言及するべきである。

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