ステークホルダー合同コメント~ビジネスと人権NAP公表にあたって~〔2020年11月9日〕

2020年10月16日に公表された日本政府のビジネスと人権NAP(「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025))について、策定プロセスに参画してきた「作業部会」構成員一同から11月9日にコメントが出されました。

コメントには、同じく作業部会構成員一同から2019年11月と2020年6月に提出された「共通要請事項」が、公表されたビジネスと人権NAPにおいてどの程度反映されているかを示す「ビジネスと人権NAPの「措置」における第1・第2共通要請事項の反映状況」一覧表が添付されています。

なお、同日、諮問委員会構成員からも合同コメント「ビジネスと人権」に関する行動計画の公表にあたってが出されています。

※ 作業部会構成員は、公表されたビジネスと人権NAPの末尾33ページに掲載されています。

※ 末尾のリンクから、「反映状況」を加えた詳細版PDFをダウンロードできます。


ステークホルダー合同コメント

~ビジネスと人権NAP公表にあたって~

 

ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議 御中

令和2(2020)年11月9日

ビジネスと人権に関する行動計画に係る作業部会

ステークホルダー構成員一同

 

 

 令和2(2020)年10月16日、ビジネスと人権に関する行動計画(「NAP」)が公表されました。NAP策定に係る作業部会ステークホルダー構成員(「SH」)一同は、公表に至るまでの政府関係府省庁、中でも外務省総合外交政策局人権人道課の取りまとめにおけるご尽力に敬意を表します。公表されたNAPにおいて、既存の政策について「ビジネスと人権」との関連が整理され、かつ「今後行っていく具体的措置」の担当府省庁が特定され明記されたことは、政府が「ビジネスと人権」に関する施策を、一貫性をもって推進するにあたって重要な出発点となるものとして歓迎いたします。

 NAPは、国連指導原則に基づいて、国が人権に対する保護義務を果たし、人権への負の影響を防止、軽減、是正するための企業の責任ある行動を促し、救済へのアクセスを提供するための重要な政策文書です。NAPは既存の関連政策の整理にとどまるものでは足らず、国内外の企業活動が及ぼす人権への具体的な負の影響を継続的に評価し、既存の施策とのギャップを分析し、これに効果的に対処できるものである必要があります。

 そのため、SH一同は、これまでNAPに盛り込まれるべき内容について相互に議論を重ね、政府に対して、SHの意見が最低限一致する要請事項(「SH共通要請事項」)を2回にわたり提出し、その内容をNAPに具体化して反映することを要請してきました(第1共通要請事項第2共通要請事項)。別添資料(ビジネスと人権NAPの「措置」における第1・第2共通要請事項の反映状況)に示した通り、各SH共通要請事項の内容が一部反映されたとは言え、残念ながらSHとしてはまだ十分に反映されているとは言い難く、関係府省庁とSHとの意見交換において課題の共有化を図る必要があります。

 NAP策定は政府の行動の出発点です。NAPに基づく具体的な行動の実施にあたっては、負の影響とガバナンスギャップの継続的な評価・分析をふまえて、関係府省庁が連携して、国として一貫した措置をとる必要があります。これらの観点から、透明性・包摂性・実効性の担保された実施及びモニタリングのプロセスが重要となります。

 この点について、NAPは「行動計画策定後速やかに、関係府省庁とステークホルダー との間の信頼関係に基づく継続的な対話(行動計画の実施状況の確認の機会を含む)を行うための仕組みを立ち上げる」と記載していますが、当該仕組みの具体的な内容は明確ではありません。また、関係府省庁連絡会議により、①実効的かつ持続可能なフォローアップ、②企業における人権デュー・ディリジェンスの導入につながる情報提供、③企業における人権デュー・ディリジェンスの推進状況の確認に関して、速やかに検討される旨が記述されていますが、これらの点についても具体的にステークホルダーとの対話によって進めていくことが必要です。

 よって、SH一同は、SH第2共通要請事項に掲げた「ステークホルダー関与型のNAP実施・モニタリング・改定の体制整備」の仕組みとしての具体化を要請します。SHは、これまでのNAP策定プロセスを通じた意見調整の過程で、各所属組織内での対話、さらに組織間の対話を通じて相互理解を促進してきました。その結果、意見や立場の異なるSHが「ビジネスと人権」に関する施策の推進の必要性に関する共通認識の下で、共通要請事項という形で合意して提案文書を発表できたことは、他国のNAP策定プロセスと比較しても独自の取組みであり、SHはこの取組の有用性を深く自覚した上で、今後とも、開かれた対話の継続を促進していきます。

 特に新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業活動が及ぼす人権への影響に変化が生じており、今後も変化が続く可能性があることを踏まえると、NAP実施に当たって、ステークホルダーと継続的な対話を通じて、政府の対応を検討していただくことが重要です。

 以上のとおり、SH一同は、政府に対して、NAPの実施・モニタリング・改定のプロセスにおいて、指導原則を実質的及び効果的に実施するためにSH共通要請事項として明記した事項の反映を引き続き要請すると共に、これらのプロセスにステークホルダーが関与する開かれた包摂的な体制をより具体的に整備することを強く要請します。また、NAPが、国連指導原則に従い政府が具体的な行動をとるための極めて重要性の高い文書であることを踏まえ、政府内及び社会一般に対して、積極的、継続的かつ効果的に指導原則とNAPの啓発を行うことをあわせて要請します。

 NAP公表を踏まえ、政府の「ビジネスと人権」に関する一貫性のある政策の実施と、速やかなステークホルダーの関与するモニタリング体制の始動を期待しています。