ビジネスと人権NAP:すべては今後の取り組みにかかっている~NAP公表に際しての市民社会からのコメント~

2020年10月16日

ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォーム

 

 ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)が公表されました。4年近くにわたる策定プロセスは、今後、NAPの実施・モニタリング・改定という新しい段階に入っていきます。

 2016年秋に策定を表明して以降、「ビジネスと人権」という新しい課題に対し、取りまとめに尽力してきた日本政府に改めて敬意を表します。

 一方、公表された行動計画はなお不十分であり、課題は山積しています。

 NAPの策定プロセスに市民社会の視点を反映させるために設立したビジネスと人権NAP市民社会プラットフォームは、2017年5月の「初期提言」をはじめ、策定プロセスのそれぞれの段階で市民社会の立場から一貫して以下の諸点を要請してきました。

  1. 指導原則への準拠、包摂性と透明性のあるプロセス、定期的な見直しと改定などをNAPの「不可欠の条件」とする国連ワーキンググループの「ビジネスと人権に関する国別行動計画の指針」を十分に踏まえること
  2. NAPの内容を、国際人権基準と指導原則に明確に基づいたものにすること
  3. ビジネスと人権の問題に関する認識を政府内部で高め、政策の一貫性を確保すること
  4. 策定プロセスにおいて、関係するステークホルダーと十分な協議を必ず行うこと
  5. ベースラインスタディを重視し、人権への負の影響の特定及びギャップの特定を漏れのないように行うこと
  6. 人権への負の影響に対処するための政府の具体的な措置を十分に検討すること
  7. 社会的に脆弱な立場に置かれた、または周縁化された人々への視点と平等及び非差別の原則を重視すること
  8. パリ原則に適合した国内人権機関の必要性と設置に向けた道筋をNAPに記述すること

 策定プロセスから実施・モニタリング・改定プロセスに移っていく今、私たちは改めてこれらの要請を繰り返さざるをえません。本文30ページにわたる行動計画には、これらの要請内容に関連する記述も一部含まれているものの、現行の施策と実際の人権課題とのギャップ分析が十分になされていないことから、現行の施策の維持にとどまっているものが多くあります。また国際人権条約審査でたびたび指摘されており、指導原則でも救済へのアクセスにおいて重要な役割を果たすとされる国内人権機関に関する議論も不十分です。

 

 指導原則の趣旨に沿った施策が実現するかどうかは、今後どのようにNAPが実施されるか、適切な評価指標によってどのようにモニタリングされるか、改定に向けてどれだけ真摯で透明性のある議論がなされるかにかかっています。

 

 社会的に脆弱な人々、周縁に追いやられている人々は、企業活動による負の影響を受けたまま取り残されています。職場で働く人々、サプライチェーンの先で働く人々は、大切にされ、人として当たり前の権利が実現されているとは言えません。国内外の現実は、気候危機が人権にもますます大きな影響を及ぼす中で、またCOVID-19の広がり続ける影響の中で、より深刻になっています。こういった国内外で共通する課題に対して、国が人権を保護する義務を十分に果たすことが求められています。

 この行動計画は、こうした厳しい現実を前に、一人ひとりの人権が大切にされる持続可能な未来に向けて力を発揮しなければなりません。「Committed to SDGs」と記された行動計画は、その内実を証する必要があります。すべては今後の取り組みにかかっています。

 

 2017年5月の「初期提言」で表明した「あらゆる人々がビジネスによる人権侵害から保護されなければならない、という目指すべき共通の課題を政府と共に見据えながら、国別行動計画の策定プロセスにおけるステークホルダーとしての責務の自覚のもとに」という私たちの立場は、策定後においても変わることはありません。今後も、市民一人ひとりの人権が実現されるよう、国内外の広範な人々との連携をめざしながら、ビジネスと人権NAPが実効的に実施され、継続的に改善されていくよう尽力していきます。

■