【優先分野・事項】

  • 公共調達(指導原則I 国家の人権を保護する義務):政府調達手続きにおいて、人身取引、強制労働、児童労働を使用した物品および役務の調達を禁止し、契約者に対して労働環境、苦情処理体制、違反行為への罰則などを含むコンプライアンス計画を策定するように求める法律の制定
  • 企業が人権についての社会的責任を推進するための取組み(指導原則II 人権を尊重する企業の責任):企業が、人権尊重へのコミットメント、事業における労働者の人権順守、そのための行動、評価、情報開示を求める法律の制定
  • 国内の児童労働を無くすための取組みの強化(指導原則III 救済へのアクセス):
  1. あらゆる形態の児童労働を取り締まるための包括的な法律の制定
  2. 最悪の形態の児童労働を撤廃するための国家行動計画の策定
  3. 児童労働を一括して所管する部署の設置
  4. 児童労働の実態調査の実施と対策の推進

(認定NPO法人ACE)


1.公共調達(指導原則I 国家の人権を保護する義務)

政府調達手続きにおいて、人身取引、強制労働、児童労働を使用した物品および役務の調達を禁止し、契約者に対して労働環境、苦情処理体制、違反行為への罰則などを含むコンプライアンス計画を策定するように求める法律の制定

 

 日本政府による公共調達は、GDPの約2割を占めており、ビジネスと人権への影響は小さくない。公共調達に規制を設けることによって、人権を守っていない企業への税金の使用を防げる。

 米国では、大統領令13126号において、強制労働や児童労働によって作られた品目リストを労働省に作成するように求め、それらを連邦政府が調達することを禁止している。また、大統領令13627号は、連邦政府の契約において人身取引や強制労働への関与を禁止し、契約者に対して労働者の住居や賃金、適切な苦情処理体制、人身取引をした場合の罰則などを含むコンプライアンス計画を策定するように命じている。

 さらに、公共調達の契約者となる民間企業に対しても、サプライチェーンにおける人身取引、強制労働、児童労働を無くす取組みを促進する法整備が各国で行われており、「英国現代奴隷法」をはじめとしフランス、オランダ、オーストラリアなどでグローバルなサプライチェーンの透明化に向けた法律が制定されている。

 日本においては、「グリーン購入法」によって、政府調達における環境への配慮が定められている。しかし、障害者の自立や女性活躍の推進が優先的な公共調達の指針としている法律や条例があるものの、サプライチェーンも含む人権に配慮した包括的な調達方針・法律は現在存在しないと認識している。

 民間セクターの人権配慮を促進するためには、公的な調達方針が人権の保護、尊重、救済を促進するルールであることが極めて重要であり、政府の影響力を人権分野で発揮できる手段のひとつとなる。持続可能な公共調達の議論も国際的に進んでいることから、政府の調達方針に関する包括的な方針・法令の必要性について、行動計画策定の過程で議論し、法制化について行動計画に含めるべきである。

 

参考:

  • 指導原則1-5(10)、3-1(12) 調達法:我が国は、国家による民間セクターからの物品及び役務の調達において人権及び環境への配慮を取り入れることを支援するような法規を制定しているか。

2.企業が人権についての社会的責任を推進するための取組み(指導原則II 人権を尊重する企業の責任)

企業が、人権尊重へのコミットメント、事業における労働者の人権順守、そのための行動、評価、情報開示を求める法律の制定

 

 企業が国内外を問わず労働者の人権および人権全般を守ることが、グローバルビジネスにおいてますます求められている。各国でサプライチェーンにおける人身取引、強制労働、児童労働の有無やリスクの確認を行い、その情報を開示するように規定された法律が制定されている。「英国現代奴隷法」をはじめとしフランス、オランダ、オーストラリアなどでグローバルなサプライチェーンにおける人権の担保を目指した法律がその一例である。 

 海外に拠点をもたなくても、海外の企業と取引をしている日本企業は、規模の大小にかかわらず、ビジネスにおける人権順守のための取組みを実施し、公表しなければならない。日本が貿易による経済成長を持続していくためには、ビジネスと人権に取り組む必要がある。サプライチェーンの透明化を図る法律をもっていることで、日本企業への信頼が高まり、企業もすべきことが明確になるというメリットが考えられる。特に、人権についての企業の社会的責任に関する情報開示を含めることが肝要である。

 なお、法律とともに、貿易の中での人権配慮を推奨するためのグローバルなルール形成、法令順守の徹底と、そのイニシアティブをとっている企業・産業、および中小企業に対するインセンティブを検討することも重要である。

 

参考:

  • 指導原則1-5(6) 、3-1(1) 会社法・証券法
  • 指導原則1-5(9) 、3-1(11) 開示・報告
  • 指導原則2-1(4)  報告義務

3.国内の児童労働を無くすための取組みの強化(指導原則III 救済へのアクセス)

①あらゆる形態の児童労働を取り締まるための包括的な法律の制定

 日本は、「就業が認められるための最低年齢に関する条約(ILO第138号)」および「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約(ILO第182号)」を批准している。また、日本が実施を表明している「持続可能な開発目標」には、「2025年までにあらゆる形態の児童労働の撤廃」(目標8、ターゲット7)が含まれている。すなわち、日本は国内外で児童労働をなくすことに明確なコミットメントを示しているのである。

 しかし、現行の労働基準法ではあらゆる形態の児童労働を取り締まることはできず、「最悪の形態の児童労働条約」で定義されている児童労働の一部にしか対応できていない。児童福祉法、児童買春・児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律などが適用されている。そのうえ、これらの法律においても「抜け穴」が存在し、罰則規定は児童の雇用を抑止するには不十分である。

 また、現在振り込め詐欺の出し子や受け子に子どもが使われている案件が急増し、薬物使用の年齢が低下しており薬物の売買に子どもがかかわる可能性がある。このような不正な活動に子どもを使った場合も児童労働であるが、その使用者であることを罰するのに適用される法律はない。

 国内の児童労働を撤廃するためには、あらゆる形態の児童労働を取り締まることができる包括的かつ厳罰化した法律が必要であり、子どもを雇用している企業を含む法人への適用および順守の徹底をすべきである。

 

②最悪の形態の児童労働を撤廃するための国家行動計画の策定

 「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約(ILO第182号)」において、加盟国は最悪の形態の児童労働を優先的に撤廃するための行動計画を作成、実施することが求められている。しかし、日本は本条約を2001年に批准したにもかかわらず、行動計画は作成されていない。

 最悪の形態の児童労働のなかでも、とりわけ子ども(特に女子児童)を商品化したビジネスが蔓延している状況は、他国に例をみない。JKビジネス、アイドル、児童ポルノ、児童買春(援助交際)など、子どもに対する性的搾取の事例は枚挙にいとまがなく、社会が容認していること自体が問題である。

 これらに加え、人身取引、強制労働、不正な活動への子どもの使用、接待娯楽業、建設業における危険有害労働などを無くし、子どもの保護やケアを十分に提供できるための行動計画を早急に作成る必要がある。行動計画においては、企業を含む法人の責任と義務を明確にし、対策を講じるようにしなければならない。

 

③児童労働を一括して所管する部署の設置

 児童労働問題を解決するためには、労働、教育、福祉など多方面から取り組まなければならない。しかし、現在は児童労働を一元的に所管する部署がない。関係省庁と調整し、児童労働撤廃のイニシアティブをとる主管部署が必要である。

 

④児童労働の実態調査の実施と対策の推進

 児童労働を無くすためには、その実態を把握する必要がある。しかし、日本においては、政府によって児童労働に関する調査は実施されておらず、一般に児童労働に対する認識が低い。

 「ブラックバイト」と言われている違法性のあるアルバイトに子どもが従事している現状も鑑み、形態別、年齢別、男女別の児童労働統計を作成し、その全容と背景を理解し、個々の状況に応じた対策を推進することが必要である。

 並びに、企業は本社のみならずすべての支社、調達先、委託先における児童労働の有無、および児童労働が発生するリスクについて特定し、児童労働が発覚した場合の対策を策定する必要がある。

 

参考:

  • 指導原則3-1(19)