「ビジネスと人権」に関する行動計画の原案に対する意見

特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ


意見1

 

1.該当箇所

第2章2(1)オ(エ)

 

2.意見内容

〇該当箇所の中に、以下に示す内容を明記してください。

 

(1)LGBTの職場での困難は、カミングアウトの壁があり非常に見えにくくなっているため、国によるLGBTの学歴、年収(貧困の度合い)、ハラスメント経験等に関する調査を推進すること。

 

(2)企業活動において、トランスジェンダーの人権は著しく侵害されている現状があることを受け、誰もが自分らしく働く権利を保障するため、トランスジェンダーの職場での性別移行に関するガイドラインを作成すること。

 

(3)採用活動でLGBTが排除されないよう企業を指導するため、都道府県労働局、労働基準監督署、ハローワークなどにおいて、職員や相談員への研修を行う必要があること。

 

(4)国連等の国際機関でのLGBTに関する人権擁護のキャンペーンに、政府として積極的に協力すること。また、LGBTの人権擁護に関する政府間会議であるEqual Rights Coalitionなど、国連外の枠組みにおいても各国が積極的に参加しているネットワークに加盟すること。

 

3.理由

〇「2.意見内容」に示す番号と対応させて、以下にそれぞれの理由を示します。

 

(1)日本では、民法上、同性カップルの婚姻が認められていないことから、企業における家族手当や住宅制度、慶弔休暇、育児休暇、介護休暇等の各種の福利厚生制度が同性パートナーとその親族には適用されない現状があり、そのことにより就業の継続が困難になり、離職する人がいる。

 

・また、日本の職場環境は男女で様々な違いがあるが、その中で、トランスジェンダーは企業から戸籍上の性別に基づく扱いを受けることが多い。男女別の服装規定があり、職場で男性として扱われているトランスジェンダー女性が髪を伸ばすことが認められなかったりする。トイレや更衣室を自認する性別に添って使用することが困難であったり、男女別でかつ集団で行われる定期健康診断のハードルの高さから健康診断を受けることができなかったりする。アウティング(望まない暴露)等の職場でのハラスメント経験が多く、メンタルヘルスの状態も悪い。就業の継続が難しいこともあって、年収も低い傾向にある。

 

・これらはLGBTの勤労の権利を奪うものであるが、カミングアウトが困難な社会状況のなかでこのような困難は見えにくいものとなっている。しかしながら、状況改善のために必要な、現状を把握するための調査が十分には行われていないためである。

 

(2)(1)に示すように、戸籍の性別変更の困難さ、男女での区分の多い職場環境、ハラスメント、これらのストレスによるメンタルヘルスの悪化が、トランスジェンダーの勤労の権利を奪い、貧困状態におかれている。トランスジェンダーが自分の望む性として働く権利を保障するために、性別移行に関するガイドラインが必要であるためである。

 

(3)企業の採用活動に当たって、応募の際に性別の記載が必要とされる企業がある。また、面接で結婚や子育てに関することを聞かれることが、LGBTにとってストレスになる。トランスジェンダーがカミングアウトをした結果、採用されない又は内定が取り消される事例もある。

 

・しかしながら、本来は就業支援、企業の指導をする立場にあるはずの都道府県労働局、労働基準監督署、ハローワークなどにおいても、職員や相談員のLGBTに関する知識が乏しいことで、企業や当事者が十分な支援が受けられず、アウティング等の二次被害を受けることもあり、これはLGBTの勤労の権利を奪うものであると考えられるためである。

 

(4)国際的な基準と照らし合わせれば、日本のLGBTの人権擁護に向けた取組は十分とは言い難い状況がある。そのような中でグローバル企業におけるLGBTの権利擁護を後押しするためには、政府として国際機関でのLGBTに関する人権擁護のキャンペーンに積極的に参加する必要がある。また、LGBTに関する諸外国との情報交換のために、国連外の枠組みにおいても各国が積極的に参加しているネットワークに加盟することが必要となるためである。

 

意見2

 

1.該当箇所

 第2章2(1)オ(カ)

 

2.意見内容

消費者としてのLGBT当事者の平等(差別禁止)の課題として、旅館業法との関わりに加えて、安全に医療を受けられることの必要性や、保険や住宅を含む商品・サービスを受けることができるよう企業が取組むことが不可欠であることを記載してください。

 

3.理由

 消費者としてのLGBT当事者の平等(差別禁止)の課題は、旅館業法との関わりに留まらない。

 

 例えば、医療に関わっては、本人の意思が確認できない場合の同性パートナーによる代理意思決定や、同性カップルへの生殖補助医療(第三者の精子による人工授精等)の適用、診察の際に記入する問診票の性別欄や、入院の際の部屋の割り当てなど、課題は多岐にわたる。医師に十分な理解がないために、性的指向や性自認にかかわる侮辱的な対応を受けることによって、医療を受けることから排除されるケースもある。

 

 また、保険や住宅などの商品・サービスにおいては、同性カップルを生命保険の死亡保険金の受取人とすることができない場合や、同性カップルが住宅ローンやペアローンを組むことが困難な状況がある。

 

 上記のように、LGBTは安全に医療を受けることができない現状や、同性カップルが保険・住宅等の商品・サービスを異性カップルと同等に享受することができないことを課題として捉え、その改善に取組む必要性を明記すべきだからである。

 

意見3

 

1.該当箇所

 全体

 

2.意見内容

 原案では、LGBTについては第2章2(1)オ「法の下の平等(障害者、女性、性的指向・性自認等)」でのみ触れられています。しかし、平等の実現(差別の解消)から一歩進んで、LGBTの人権尊重・保護が不可欠であることを明確に記述する必要がありあます。したがって、「子どもの権利の保護・促進」など、社会的に脆弱な人々の権利保障とともに、「LGBTなど性的マイノリティの権利の保護・促進」を明確に柱立てしてください。

 

 その際、海外で同性婚の法整備が進んでいることも受け、日本でも同性パートナーの法的保障を推進することを明記してください。また、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」における要件の緩和の必要性を明記してください。

 

3.理由

 2011年に国際連合人権理事会の第17会期で「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で支持されたが、同会期においては「人権、性的指向およびジェンダー同一性」に関する決議が、日本も賛成する形で採択されている。その後、2016年の第32会期においては、一層明確な記述がなされた「性的指向およびジェンダー・アイデンティティに基づく暴力と差別に対する保護」が採択されている。このことは、国際的に認められた人権基準として、「LGBTなど性的マイノリティの権利の保護・促進」を明確に柱立てすることの必然性を承認するものである。

 

 そのうえで、企業が国際的に認められた人権を尊重する責任(LGBTの人権を侵害しない責任)を果たすよう、国家は立法・司法・行政を通じて施策を講じる人権保護の義務を負う。そのためには、LGBT当事者の人権保障のための法政策が必要不可欠である。しかしながら、現状はLGBT当事者の人権保障のための法政策は十分になされてはおらず、このことは企業活動におけるLGBTの人権侵害にもつながっている。

 

 例えば、日本では、民法上、同性カップルの婚姻が認められていないことから、企業における家族手当や住宅制度、慶弔休暇、育児休暇、介護休暇等の各種の福利厚生制度が同性パートナーとその親族には適用されない現状がある。さらに、海外において同性同士で結婚をしているカップルが日本に赴任することになった場合、同性同士の婚姻を認めていない日本においては配偶者ビザが発行されず、年金などの社会保障制度にも含まれないため、赴任をためらうことがある。これは海外で公的に認められた個人が家族をつくる権利を否定しているだけでなく、赴任ができない場合に本人に対して企業の評価がマイナスになることもあり、これは性的指向による差別の要因になり得る。

 

 また、日本の職場環境の中で、トランスジェンダーは企業から戸籍上の性別に基づく扱いを受けることが多く、そのことが困難を経験する原因の一つと考えられる。しかしながら、日本において法令上の性別の取扱いの変更を求める方は、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」で定められている要件を満たす必要があるが、同法で定められる要件は海外と比較して相当に厳しく、身体の機能や外見を変更する手術を強要し、既婚者には事実上離婚を強要している。さらに、海外では、申請だけで性別を変更できる国もあるが、そうした国から日本に移住して働く場合に本人がどんな扱いを受けるのか、判然としない。

 

 以上のような、国際的および国内の状況を踏まえ、本意見を述べるところである。

 

以上