「ビジネスと人権」に関する行動計画の原案に対する意見
一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター
〔ヒューライツ大阪〕
「ビジネスと人権」に関する行動計画原案へのパブリック・コメントの機会を設けていただき、大変ありがとうございます。
以下に、原案に対するコメントと、是非とも行動計画に盛り込んでいただきたいと思う事項をお送りします。どうかよろしくご検討ください。
1)まず、「SDGsの達成と人権の保護・促進は表裏一体の関係」と明記されたことを歓迎します。
2)4ページの「行動計画の策定を通じ目指すもの」(1)では「社会全体の人権の保護・促進に貢献することを目的とする」と書かれていますが、本行動計画は「ビジネスと人権」に関する行動計画です。それを踏まえ、「企業活動における人権の保護と救済の保障を目的とする」と明記してください。
3)5ページの「(3)日本企業の国際的な競争力及び持続可能性の確保・向上」で記されている「人権配慮の取組を進める日本企業が正当に評価を得る環境づくり」について、「人権配慮の取組を進める」ことで評価を受けるのは「指導原則」の趣旨に合致していません。「人権尊重責任を果たし救済を保障する」としてください。指導原則は、そうでなければ企業の国際的な競争力の確保・向上はないと考えているはずです。
4)6ページの「行動計画の基本的な考え方」では、「理解促進・意識向上」に重点を置く記述が何度も登場し、「理解促進・意識向上」が、ビジネスにおける人権の保護と救済の保障に結びつくような印象があります。具体的な制度と施策がなければビジネスにおける人権の保護と救済の保障は不可能であり、そうした制度と施策の拡充を予算措置とともにおこなうことを明記してください。
5)8ページの「具体的な措置」の「(ア)ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の促進」では、安定した雇用創造の重要性を追記してください。また、非正規労働が女性に偏っている現実や出産離職の高さを踏まえ、ワークライフバランスと一体化したディーセント・ワークを推進することを明記してください。
6)8ページの「具体的な措置」のなかの「(イ)ハラスメント対策の強化」では、「セクシュアルハラスメント等の防止対策の強化を行っている」との記述がありますが、「罰則をつけた対策等、実効性のある対策の強化」を明記してください。
7) 8ページの「具体的な措置」のなかの「労働者の権利の保護・尊重」では、「ILO111号条約(雇用と職業についての差別待遇)、ILO190号条約(仕事の世界における暴力とハラスメント撤廃)の批准に向けて努力すること」を明記してください。
8)8ページの「具体的な措置」のなかの「労働者の権利の保護・尊重」では、「技能実習生の失踪対策を更に充実させる」との記述がありますが、不当な低賃金や渡航前に背負った多額の借金の返済など失踪の背景にある要因を十分に把握し、「技能実習生が失踪に追い込まれないよう技能実習制度を更に改善する」としてください。
9)8ページの「具体的な措置」のなかの「労働者の権利の保護・尊重」では、女性技能実習生に対し、妊娠・出産を理由にした解雇や中絶強要、強制帰国などがおこなわれている事例を踏まえ、「ジェンダーの視点に立ったリプロダクティブ・ヘルス/ライツ等、基本的な人権が保障される労働環境を整備すること」を明記してください。
10)9ページの「子どもの権利の保護・促進」の「具体的な措置」について、人身取引、性的搾取、児童買春の被害者には女性と少女が多く含まれているという現状があります。「被害者には女性と少女が多く含まれていることを踏まえ、ジェンダー視点に立った対策に十分留意すること」を明記してください。
11)9ページの「新しい技術の発展に伴う人権」では、「ヘイトスピーチを含むインターネット上の名誉棄損、プライバシー侵害等への対応」に関し、こうした人権侵害はセクハラ、リベンジポルノ等、ジェンダーに基づく暴力である場合、また、外国籍住民、被差別部落出身者、障害者、性的マイノリティなど様々なマイノリティ集団に対する差別意識や排外的態度の現れである場合が多いことを踏まえ、「ジェンダー平等の視点と多様性・包摂性への配慮に十分留意する」ことを明記してください。
12)11ページの「法の下の平等(障害者、女性、性的指向・性自認等)」の「具体的な措置」「(ウ)女性活躍の推進」には、「セクハラを始めとする職場の暴力とハラスメントについての意識を高め、防止するための措置を強化する(研修を義務化する)」「男女両方がワークライフバランスを実現するために、ケアワークの平等な分担を推進する」「女性が多数を占める、特に海外のサプライチェーンにおける労働者の人権保障に十分留意する」ことを明記してください。また、「障害者雇用の促進」については、「女性障害者等、複合的な不平等を被りがちな当事者への配慮」を明記してください。
13)12ページの「外国人材の受入れ・共生」の「具体的な措置」「共生社会実現に向けた外国人材の受入れ環境整備」に記されている「『外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(改訂)』に盛り込まれた施策について、引き続き着実に実施していく」という記述について、具体的に総合的対応策(改訂)のどの施策のことを指すのか明記してください。
14)15ページの「人権教育・啓発」について、従来の人権教育・啓発を引き続き実施していくだけでなく、「ビジネスと人権」に関わる課題が明確になり、また、働く人たちが自分たちに保障されている国際人権基準に基づいた権利を理解し、権利侵害に際し救済や回復を求める権利を有していることを自覚できるよう、指導原則が依拠している国際人権基準を踏まえた人権教育・啓発を実施することを(イ)において明確に記述してください。
15)17ページの「国内外のサプライチェーンにおける取組及び指導原則に基づく人権デュー・ディリジェンスの促進」の「具体的な措置」には、「女性活躍推進法の着実な実施」だけではなく、「女性が多数を占める、特に海外のサプライチェーンにおける労働者の人権保障に十分留意する」ことを明記してください。また、「セクハラを始めとする職場の暴力とハラスメントについての意識を高め、防止するための措置を強化する(研修を義務化する)」についても明記してください。
16)18ページの司法的救済及び非司法的救済に関連し、国連の人権条約諸機関が日本に対し繰り返し勧告し、また日本政府が長年にわたり検討することを内外に表明している、「パリ原則に基づいた独立した権限をもつ人権機関を設立すること、および人権条約の個人通報制度を受諾することについて真摯に検討し早急に実現をめざす」ことを明記してください。
17)19ページの「救済へのアクセスに関する取組」の「具体的な措置」(ウ)には、「NCPが日本の多国籍企業のサプライチェーンにおける人権侵害にも丁寧に対応すること」、また、「セクハラを始めとする職場でのハラスメントへの対応の必要性を踏まえ、NCPがジェンダー視点に立った活動を強化すること」を明記してください。
18)19ページの「救済へのアクセスに関する取組」の「具体的な措置」(オ)として、「技能実習の実施が困難となった際の転籍支援を引き続き実施していく」ことが記載されていますが、経営破綻した実習実施機関(受け入れ企業)のケースにとどまらず、「劣悪な条件など企業側の非が理由で実習実施が困難になった際の転籍支援も実施する」ことを明記してください。
19)20ページの「行動計画の実施・見直しに関する枠組み」には、本行動計画の実施状況を確認するための「モニタリング・成果指標の設定」を明記してください。そして、進捗を検証するために、「多様なステークホルダーが参加する評価委員会の設置」を加えてください。また、見直しは5年後ではなくて3年後におこなってください。
・理由
各項目で述べてきた通り。
以上
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