「ビジネスと人権」に関する行動計画の原案に対する意見

 NPO法人ACE


 この度は、「ビジネスと人権に関する行動計画 原案」につきまして、意見提出の機会をいただき、感謝申し上げます。子どもを支援している団体として、特にビジネスにおける子どもの人権の保護について、パブリックコメントをお送りします。ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。

 

【pp6-19】 2. 分野別行動計画

【分野別行動計画には、具体的な措置に加えて、その措置の裏付けとなる全体方針を書いてください。】

<理由>

 行動計画であることから、現状説明から具体的な措置の記述に至るまでに、今後の政府の方針を明記すべきであると考えます。現在、具体的な措置に言及できなくとも、各事項に取り組んでいくうえで、政府はどのような考えのもとどのような措置を講じていくのかという方向性を示す必要があると思います。

 

【pp8-9】 (1)横断的事項 イ 子どもの権利の保護・促進

 

◆【p8】 現在の2つのパラグラフの後に今後の方針を追加

【政府は「子どもの権利条約」を順守し、「子どもの権利とビジネス原則」(2012年)を指針として、ビジネスにおいてあらゆる子どもの権利侵害をなくすように取り組んでいく。】

<理由>

 ビジネスにおいて子どもの権利を保護・促進するためには、児童労働、製品やサービス、マーケティングや広告など幅広い分野での取組が必要です。この原案では、人身取引、性的搾取、児童買春など、ビジネスが影響を及ぼす子どもの権利侵害の一部しか取り上げられていません。子どもの権利を守るために、包括的な視点からコミットメントを示し、現在行われていない施策についても段階的に検討していくことを明記してください。

 

【p8 最終行】 <具体的な措置> (ア)「・国際機関等への….」 への修正

【・児童労働の撤廃に向けて、Alliance 8.7への加盟、及びそれを含む国際機関等への拠出や技術協力を通じて、支援していく。

<理由>

 Alliance 8.7は、SDG 8.7達成ためにILOが設立した多数の関係機関によるパートナーシップで、現在17のパスファインダー国と225のパートナー団体が登録しています。このような国際的ネットワークに加盟し、支援していくことは重要であることから、言及してください。

 

【p9】 (ウ)と(エ)を統合

「子どもに対する暴力撤廃グローバル・パートナーシップ」を通じた取組

・「子どもに対する暴力撤廃行動計画」の着実な実施を通じ、性的搾取や児童労働を含む国内の子どもに対する暴力撤廃に取り組んでいく。

・「子どもに対する暴力撤廃基金」の人道分野への拠出を通じ、海外での取り組みを支援していく。

<理由>

 GPeVACは、SDG16.2達成に貢献するためにつくられました。性的搾取、人身取引、児童労働が含まれるのですが、一般に子どもに対する暴力といえば家庭や学校での虐待というイメージがあるため、ビジネスにおける子どもに対する暴力への取り組みとは何かを示す必要があります。

 同様に、一般に紛争下の子どもとビジネスの関連はイメージしにくいと思われます。そのため、①「紛争下の子ども」を書く場合は、ビジネスとの関連を説明する、②「紛争下の子ども」を削除するという2つの修正案がありますが、ここでは②を選択した意見としました。

 

【p9】 <具体的な措置>に追加

【(オ)サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引、現代の奴隷制の撤廃

・G20大阪サミットの首脳宣言と雇用労働大臣宣言において示したコミットメントを実施に移すために、国内外で必要な取組を検討する。

<理由>

 日本政府がホストしたG20でのコミットメントを日本がイニシアティブをとって、国内外で着実に実行していく必要があります。

 

【p9】 <具体的な措置>に追加

【(カ)国内の児童労働への取組

・あらゆる形態の児童労働を取り締まるための包括的な法律制定、行動計画策定、所管 部署の設置を検討する。

<理由>

 日本における児童労働の明確な定義はなく、労働基準法だけでは対応できていない状況から、新しい法律が必要だと考えます。また、日本は「最悪の形態の児童労働条約(ILO第182号)」を批准していますが、加盟国に求められている行動計画が作成されていません。さらに、児童労働問題を解決するためには、労働、教育、福祉など多分野の連携が欠かせないことから、関係省庁と連携、調整しながら一括して取り組む主管部署が必要です。

 

【p15】 エ.人権教育・啓発 <具体的な措置> (イ)「・ビジネスと人権…」 への修正

【・「人権教育・啓発に関する基本計画」にビジネスと人権における各種人権課題を盛り込んだ改定を行い、ビジネスに関連する人権教育・啓発活動を実施していく。

<理由>

 「人権教育・啓発に関する基本計画」は平成14年度に策定され、平成23年に一部改訂されたままです。この原案が扱っているビジネスと人権に関連する人権課題について教育や啓発を行っていくためには、「人権教育・啓発に関する基本計画」における「人権課題に対する取組」の課題として追加する改定が必要です。

 

【pp19】 (4)救済へのアクセスに関する取組 <具体的な措置>に追加

(キ)国内人権機関設置の検討

【・国内人権機関や子どもの人権オンブズパーソンなど、裁判所とは別に人権侵害からの救済と人権保障を推進するための国家機関の設置を検討していく。

<理由>

 国連や子どもの権利委員会などの人権諸条約機関から、国内人権機関の設置が長年にわたって勧告されていることから、将来的な方針に言及してください。

 

【p20】 第4章 行動計画の実施・見直しに関する枠組み

ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォームの幹事団体として、同ネットワークと同様の意見を述べさせていただきます。

 

【p20】 2. 行動計画の期間 への修正

【2. 行動計画の期間は令和2年度(2020年度)を初年度とし、令和5年度(2023年度)までの3年間とする。

<理由>

 ビジネスと人権をめぐる環境の変化は大きく、その影響は企業だけでなく市民にも及びます。また、ギャップ分析や優先分野の特定など、この原案で不十分な点については今後取り組んでいく必要があります。そのため、行動計画の期間が5年とは長く、3年としてください。

 

【p20】 3. 行動計画の実施状況の確認 への修正

【3. 行動計画の実施状況を、毎年、関係府省庁連絡会議において、ステークホルダーの出席のもと確認し、対話の機会を設ける。

<理由>

 「ビジネスと人権に関する国別行動計画の指針」において、行動計画の策定、実施、モニタリングから改定まですべてのプロセスでステークホルダーと協議の場を設けるように求められています。実施状況については、結果報告だけでなく、モニタリングやアセスメントにもステークホルダーとの対話が含まれるようにしてください。

 

【p20】 3.と4.の間に「指標」について追加

【4. 行動計画の実施状況を確認・評価するための指標を設定し、その指標に基づいて評価した進捗状況を毎年公表する。

<理由>

 「ビジネスと人権に関する国別行動計画の指針」において、人権への負の影響への対応を検証するために、質的・量的指標によって実効性を評価すべきであると示されています。行動計画の実施状況の評価についても、指標の設定と公表を行ってください。

 

【全般】 表現について変更

【撲滅 → 撤廃

<理由>

 撲滅とは完全に滅ぼすことを意味し、伝染病や害虫などをなくすことを表すときによく用いられます。子どもに対する暴力や児童労働に関しては、それまで行われてきた制度やきまりなどをとりやめることを意味する「撤廃」を用いるのが一般的です。